Side 坂井直人

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 手際よく机の上に並べられたざるそばに麺つゆの入った小鉢、箸。  さすがにここまでしてもらうのは悪い気がしてきた。せめて飲み物くらいはこちらで用意しよう。コップを食器棚から出しつつ、神楽坂さんに声をかける。 「神楽坂さん、冷蔵庫にお茶があるから……喉乾いてたら……」 「ありがとうございます! 頂きます!」  1分後。 「じゃ、じゃあ頂きます」 「どうぞ~」  笑顔の神楽坂さんに見つめられながら僕は引っ越しそばを啜る。  そばは好きだ。味や歯応え、香り……何を取っても好きだ。そばとうどんとラーメンだったら間違いなくそばを選ぶ。つるりとした喉越し、絡まる麺つゆの塩味。暑い夏にぴったりだ。  ただ、そばが好きなのにはもうひとつ理由がある。それは、僕の元カノとの出会いがそば屋だったからだ。彼女も神楽坂さんみたいに田舎っぽくて、可愛かった。今会えないのが寂しいくらいだ。  僕らがそばを食べ終わると、神楽坂さんは、 「デザートもあるんです!」 と、持ってきた紙袋の中から菓子の袋を取り出した。マドレーヌにゼリーに羊羹にチョコ……とにかくたくさんの菓子類。何て脈絡のないラインナップだろう。まるで僕の好みでも探ろうとしているかのようだ。でも神楽坂さん……。 「ごめん……僕、甘いもの全般苦手で……」 「そうなんですか! あれ、でも冷蔵庫に甘い飲み物いっぱいありましたよ。カルピスとかオレンジジュースとかグレープジュースとか」 「……ああ、それは友達が置いてったんだよ」  本当は違うけど。まあ、そんなことは今は関係ないか。
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