Side 神楽坂愛里

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 15分前――。  神楽坂愛里、22歳――今日、このアパートに越してきた私は今まで得た情報を整理する。 (坂井さんは、おそば好きで甘いものは嫌いで料理はしない――前情報通り)  坂井直人と題された私の頭の中のノートには彼の情報がつらつらと書かれている。 (それなのに甘い飲み物や使わない調味料……用途は別……友達が置いていったなんて嘘。やっぱりあのハチは……)  坂井さんを追って入った山道。勾配のついた坂道を登っているからかじんわりと汗ばんできた。滑ってずれてきた眼鏡をくいと押し上げる。 (地域によってハチ誘引剤には適切な配合がある。坂井さんは、酢やカルピス――どれも彼の生活には不必要なものを配合し、この地域に最適な組み合わせを探していた)  そう、全てはスズメバチを手に入れるため。  そして私は裏山で彼を見付ける。坂井直人、24歳。私が追い求めていた存在――。 「……アナフィラキシーショック」  それは過度なアレルギー反応によって起こる免疫障害だ。ただのアレルギーと思って侮ってはいけない。過剰な免疫応答により炎症が生じ、気道を腫れが塞いでしまい窒息死――そういった事例が後を絶たないのだ。  スズメバチの毒も同じだ。スズメバチに2回刺されてはいけない――その訳はアナフィラキシーショックを引き起こすから。  私は、煙を燻して活動を鈍らせたスズメバチを捕まえようとしていた坂井さんの反応を待つ。 「アナフィ……何だって?」 「アナフィラキシーです。ご存知のはずですよね。大学で動物実験をなさっているのですから」  坂井さんは私の追及に肩を竦めるとため息をついた。 「全てを知りたいって……随分ともう僕のことを調べたみたいですね」 「はい。調べさせて頂きました」  ニコリと微笑んで私は頷く。 「披露しましょうか」  坂井さんは再び肩を竦める。 「斉藤良樹、22歳――ご存知ですよね」  返答は、ない。 「先日、彼は病院に救急搬送されました。一命は取り留めましたが……原因はスズメバチに刺されたことによるアナフィラキシーショックです」 「へえ……」 「私の調査によりますと、それをやったのは、坂井さん、あなたです」  坂井さんへと指を突きつける。
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