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潮風に吹かれ
髪が乱れる。
さらに振り返れば、なお、一層。
懐かしい声に匂い。
海の向こう側から白んできた。
神々しいほどそれはおれを包んでくれる。
優しく穏やかに、振り払うことができないくらい一方的に。
「元気そうでなによりだよ。鏡くん」
驚くおれとは対照に色を失ったおれとは対照に、あの人は、あんたは、嬉しそうにニコニコ厭らしい笑みを向けてくる。
「な、んで。あん、た」
「いやだなぁ」
両手を挙げて、目を閉じ眉を寄せた。
頭部をふりふりと数回振ると片目をまず開けた。
「うん。本当にいやだねぇ。なにも、なにも分かっていないんだね。君は――――本当にちゃんと脳味噌が詰まっているのか解剖したいぐらいだよ」
相変わらずの口調で、相変わらずの言い草で。
また目を閉じるとわざとらしくため息をつく。
やれやれだ。と。
そして両目を開くと斜め上から見下ろすように、あんたは少し頭部の中心をずらした。
「さてさて」
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