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「お疲れ様でした、坊ちゃん」
いつから居たのだろうか。足音も無く、王の座っている椅子の近くに従者らしき男が立っていた。
だが、それに動じるどころか、今まで居たことが分かっていたかのように「ん、」と返事をした。
「あちらのお部屋でお休みなさいますか?お加減が宜しくないようで」
「ああ、そうする――……」
ぐらりと身体が傾く。従者は動じることなく王の身体を支えた。
「…やはり、お体の方…無理をなさっていたんですね…」
「っ………」
現・流星の王の身体にはガタが来ている。ここ数年の間に力を使いすぎた故に、今では一人で歩くことさえままならない。
「これくらい、浮遊を使えばなんてこと…」
「ですがそれでは余計に身体に負荷が掛かります。ここに居る間は、どうか、ご無理はなさらないでください
俺は、坊ちゃんが望むのであればなんでもします」
優しく、従者が声をかける。そのとたん今まで気丈に振る舞っていた彼の瞳から大粒の涙が溢れだした。
「こわい、こわいんだ、ボクが、このまま消えるのは…人間共に長年の恨み嫉みを残したまま、何も無かったかのように消えるのは、嫌だ……
こわい、たすけて………」
すがるように従者にしがみつく。その姿は見た目の年齢も相まって、子供のようだった。
「…ご安心を、坊ちゃん」
小さい背に手を回し、何度も何度もその震える背中をさする。
「俺が、坊ちゃんの憂いを晴らして差し上げます。
そう、すべてを」
そう言った従者の目にはどこか、光が無く、冷たく感じられるものがあった。
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