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だから、認めることは出来なかった。
「伯父上!」
霽月が再び立ち去ろうとする伯父を呼び止めた。螳の動きがぴたりと止まる。待ってくれるらしい。しかし、そんなに長くはないだろう。
前から考えていたことがある。それを進言するしかない。だって自分にはそれしか出来ない。
伯父はただでは動かないと言っているのだ。だったら見合う対価を出せれば良いという事。
伯父は何を望んでいる?…そんなものは一つしかないではないか。伯父が望むのは風一族の繁栄。ただそれだけ。ならば…。
「伯父上…こういうのはどうでしょうか。伯父上には子供がいない。しかし直系は伯父上とその兄である父とその子である私達しかいません。伯父上は私を優秀だとおっしゃって、昔からこの家の跡継ぎにしようと目論んでいましたよね。しかし私が拒んでいた為にそれも中々適わなかったでしょう?だからもしこの話に応じてくれるのなら、私は風氏の為に一生を捧げることを誓います」
残念ながら霽月には螳に差し出せる財産がない。あるのはこの身一つのみ。以前から螳は、霽月が後継者になる事を望んでいた。付け込むならそこしかないと思ったのだ。
今までは面倒で避けていたが、今回はそうも言っていられない。母の命をこれ以上削る訳にはいかないのだ。
(きっと母上は、こんな事は望んでいないだろうけれど)
例え母に嫌われてもまだ死んでほしくはないのだ。父や兄弟も微妙な顔をしそうだ。喜びはしないだろうけれど反対もしないだろう。
螳の方はその言葉を待っていたとばかりにニヤリと笑った。
「その言葉、忘れるなよ?」
「勿論です」
「話を飲もう。その代わりお前は今日から次期当主だ。文字通り一生を風一族の為に捧げろ。分かっているな?」
どうせそうなると分かっていたので、霽月は、自棄っぱち気味に頷いた。
「若輩者ですが伯父上の後を継ぐ当主になれるよう、ご指導ご鞭撻のこと宜しくお願いします」
こういう経緯で霽月は雲夢で十の指には入るだろう大貴族、風氏の次期氏の長者となったのだ。
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