光風霽月

3/16
前へ
/64ページ
次へ
まだ日も登りきらない時刻、ここ智粹(チスイ)で一番大きな屋敷から、怒鳴り声が聞こえた。 「この糞親父!!何回言ったら俺の言った事が理解出来るようになるんだ!」 その獅子が吠えるような声に、周辺の集落に住む百姓が苦笑を浮かべる。あの親子は毎日良くやるな…そんな呆れの入った笑みだ。 怒鳴られた方の父親は、今頃まごまごと言い訳をしているに違いない…。何時もの光景が目に浮かんでくるようで、百姓達は情けないやら何やらで溜息を吐いた。 周囲の百姓が溜息を吐いていた頃、当の屋敷では、未だに御立腹の様子の少年が、怒鳴られて丸くなっている壮年の男に向かって説教をしていた。 「父上!聞いていますか?」 声で少年と判断したが、五尺八寸ほどもあるだろうか…男子の平均身長が五尺一寸程のこの国では結構な長身である。 背は高いけれど、顔はまだ少年のような幼さを残しているし、声が低くなりきっておらず、少年の幼さを物語っていた。 普段から切り長の目は今は更に吊り上がっていて、まさに鬼の形相だ。 「きっ、きき、聞いているよ。そんなにど、どっ、怒鳴らなくたって良いじゃないか」 少年の父親であろう男は、息子の顔をチラチラと覗き見ながらそう言った。 その父の情けない様子に、今まで少年の隣で黙って聞いていた少女が溜息を吐いた。 「兄様…その辺にしてあげてくださらない?お父様も反省していらっしゃるでしょうし」 娘の言葉に父がうんうんと何度も頷く。少年はその吊り上がった目で妹をチラリと見て、父に目を戻す。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加