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まだ日も登りきらない時刻、ここ智粹(チスイ)で一番大きな屋敷から、怒鳴り声が聞こえた。
「この糞親父!!何回言ったら俺の言った事が理解出来るようになるんだ!」
その獅子が吠えるような声に、周辺の集落に住む百姓が苦笑を浮かべる。あの親子は毎日良くやるな…そんな呆れの入った笑みだ。
怒鳴られた方の父親は、今頃まごまごと言い訳をしているに違いない…。何時もの光景が目に浮かんでくるようで、百姓達は情けないやら何やらで溜息を吐いた。
周囲の百姓が溜息を吐いていた頃、当の屋敷では、未だに御立腹の様子の少年が、怒鳴られて丸くなっている壮年の男に向かって説教をしていた。
「父上!聞いていますか?」
声で少年と判断したが、五尺八寸ほどもあるだろうか…男子の平均身長が五尺一寸程のこの国では結構な長身である。
背は高いけれど、顔はまだ少年のような幼さを残しているし、声が低くなりきっておらず、少年の幼さを物語っていた。
普段から切り長の目は今は更に吊り上がっていて、まさに鬼の形相だ。
「きっ、きき、聞いているよ。そんなにど、どっ、怒鳴らなくたって良いじゃないか」
少年の父親であろう男は、息子の顔をチラチラと覗き見ながらそう言った。
その父の情けない様子に、今まで少年の隣で黙って聞いていた少女が溜息を吐いた。
「兄様…その辺にしてあげてくださらない?お父様も反省していらっしゃるでしょうし」
娘の言葉に父がうんうんと何度も頷く。少年はその吊り上がった目で妹をチラリと見て、父に目を戻す。
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