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「はぁ…仕方ない。裏の山で山菜でも摘んでくる」
今まで怒鳴っていた長身の少年が、諦めたようにそう言って父から目を逸らした。
「兄者ー」
と体格の良い少年が情けない声を上げる。
「ふきと野蒜でも摘んでくれば大丈夫だろ?雪。」
それに雪は頷くと、お願いしますと頭を下げた。
本当は、今日は昨日採れたうどを食べようと思っていたのだが…。
うどが好物の父に見つかって、先に食べられてしまったらしい。全く仕方のないことである。
少年は何度目か分からない溜息を吐いた。そして山菜を採りに行くために、仕方なく屋敷を出たのであった。
そして眠たい目を擦りながら山に入り、朝露で重くなる服に舌打ちをした。
屋敷に住んでいる、という所から分かるように、彼等は貴族だ。それも、その辺の地方貴族などでは無い…本来ならば王の側で政治をしている立場にあるような、大貴族の家柄の直系筋なのだ。
それがどうであろう…住んでいる所こそだだっ広い屋敷であるが、奴婢が一人もいないのでそれを管理する事すら出来ない。なので雨が降れば雨漏りなんてざらにある。
他の貴族や豪族のように、周りの集落から何か徴収しようと思っても、この土地には何もない。あるのは農作物だけだが、大して育ちの良くないそれを搾り取るのは統治者として許すことは出来なかった。
というかこの土地は正式には少年たちの物ではなく、別の人の物なので勝手に何かすることも出来ない。
自分達はその人間から、土地を管理した給料として生活に必要な最低限の物が与えられて、日々暮らしている。
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