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父にもっと禄を貰ってこいと口を酸っぱくして言ったとしても、彼はそういったことに興味がなく、日々を本を読んで暮らせれば良いと思っているような人間なので、馬の耳に念仏というやつで全く意味がない。
また一つ、大きく溜息を吐いた少年の耳に遠くの方から聞こえてくる大きな声が入ってきた。
「ああ!いたいた!!」
「やっぱりここにいると思いました。今日は旦那様、何をやらかしたんですか?」
「どうせまた飯を食っちまったんでしょう。これ持っていってくだせい」
「あっ!これもこれも!」
この辺りに住む農民達だ。どうやら朝の声を聞いてこちらの事情を察してくれたらしい。
ざわざわと騒ぎながら思い思いの物を手に持って、ぞろぞろと人がやってくる。
押し付けられるようにそれらを渡されて、少年の腕はすぐに人々が持ってきた物で一杯になった。
野菜、果物…中にはまだ捌いていない雉を持ってきた人もいたようだ。血なまぐさい。
「ありがとう」
少年がこの量どうするか。と考えながら、取り敢えず微笑んで礼を言う。
「風氏の方々にはいつもお世話になっていますから」
「此処は他の所より税も少ないし、治安が良くて住み心地は良いしで俺たちも助かっていますんで」
自分達よりよっぽと身分の高い人物に礼を言われることが慣れてないのか、人々は顔を見合わせ赤くなる。
「風氏の方のお役に立てるなら光栄です。」
風…それが少年を含む、屋敷に住む人間の氏だ。先ほども述べたように中央の貴族で、〈氏の長者〉である少年の伯父は、王に仕える〈前つ君〉だ。
王の側で政治を補佐する役目を負っている。本来ならばそこには風氏長子であった少年の父…風 尚友(しょうゆう)がいる筈だったのだが、如何せん、尚友が〈氏の長者〉になんてなれば一日で風氏が没落する。
そう思った先代の手によって、晴れて尚友は長者の候補の座から外されて今に至る。
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