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霽月は百姓達にお礼を言って屋敷へと帰った。今度、お礼に大陸から渡ってきた書の話をしようと約束して。
この国には字は無い。つい百年ほど前に大陸から文字が渡ってきたばかりなのだ。
それを伝えたのは霽月の先祖であると言われている、隣の大陸から渡ってきた人々である。そのお陰であろうか、風一族の者は皆字の読み書きが出来る。先祖代々その技能を受け継いでいるからだ。
尚友も、他のことに関しては何も言いはしないが、字の読み書きに関してだけは子供達に厳しく教えた。
父にいつも言われているのは、『私達の仕事は早くこの国に文字を広める事だ。せめて上流階級くらい字を読めなければ、いつまで経ってもこの国は蛮国と言われてしまうからね』という事だ。霽月もこの点だけでは父を尊敬できると思っている。
一族の中には永遠にこれを自分達の職能にしようとしていて、他に字を教えるのを嫌がる人もいる。しかし、それでは駄目だと伯父も父も言っている。霽月もそう思う。
(雲夢は蛮国ではない…素晴らしい国なのだ)
風氏を大陸から来た余所者だと言う者もいるが(実際、一族の老人達は自分の祖国は大陸だと、考えているようだが…)、霽月にとって、祖国は雲夢だった。
その雲夢が今だに大陸で馬鹿にされているのだ…。どうしてそれを許す事が出来ようか。
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