小さなお隣さん

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 僕はそのまま小さな箱の家を抱きかかえようとした。しかし、家主がそれを拒んだ。スッと顔を上げて、鳴きもしないのに大きく口を開いては短い牙を剥き出しにする。瞳孔が細まり、耳がそそり立っていた。  それでも飛び掛かる気配はなく、やっぱり小刻みに震える虎柄を僕は自室へと拐った。  さっそくこれまで活用する暇もなかった本を手に取り、僕は拐ってきた隣人の様子と比べるように視線を這わせた。  それから毛布とミルクを入れた紙皿を用意していざ「家」の方を見ると、そこはすでに空き家だった。 「みゃ」  小さな掠れ声が、玄関の戸口の前でこちらへ首だけをめぐらせるにゃんこの口から漏れた。  そのまま尻尾を円弧状に立たせながら前足でカリカリと鉄を引っ掻くたびにこちらを澄んだ瞳が見つめてくる。  僕は無理矢理「家」の中へと連れ戻したが、しばらくすると彼はまた脱走をはかり、元いた土地がある方を見ながら小さな体で掠れ鳴いた。  僕は今度は家の中に連れ戻してから、自分もおぼろになりはじめた脳髄だけを無心に働かせた。なるべく頭だけを動かすよう努めたつもりだった。  自室に上がってきたときのように傘の芯を肩にかけ、とって部分をその家の裏側に添えてから支えをつくると、慎重に外まで身を引きずった。  その間、猫は命じられたわけでもないのにじっと身を丸めて大人しくしていた。
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