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空き地の真ん中を見つめてから、僕は仕方なしにアパートのひさしの下へと逃げ込んだ。雨が降る冬の日に三九もの熱を我が内に孕み、とても寒くて死んでしまうかもと思った。それでも、もしかして、という予感が拭いきれずに、下校する近所の学生が友人と二人並んで歩いてくるまでの間、僕は足元に置いたお隣さんと一緒になってじっと雨宿りをしていた。
「僕のお家、来ませんか?」
時おりそのようにたずねるが、お隣さんは押し黙っている。どうやら道の見えるところならばどこでも満足できるようで、あれからは一度も互いに言葉という言葉は交えていない。
ふと、その湿った毛の根元の方で細い革のようなものがふくよかな首に巻かれている様子が伺えた。音が鳴らない辺り、鈴は前の家に置き忘れたか盗まれたかしたらしかった。
どうしたものかと途方に暮れた。大家はそれほど厳しい人ではない。古ぼけたアパートを管理する立場なだけあって、懐の広さは僕の財布内部のように大きい人物だ。この隣人を外へ置き、世話をすることも恐らく許容はしてくれるのだろう。しかし、それで彼の貧相な身なりがもつのか、ただその一点ばかりが気にかかった。
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