第1章

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「その男性、花束を持って百貨店に来たそうですよ」 仕事終わり、居酒屋の個室で、私と、ほのかさんは、みうちゃんの話に耳を傾けていた。 「意中の美容部員さんの前まで来て、付き合って下さい!っていったそうです」 「それはすごいな・・・」 「穏便にお断りして、もう来ないように説得したみたいですけど、結局、警備員に連行されたそうです。怒って花束を振り回しながら。最後には、無残に散った花びらが、フロアに残されていったそうです・・・」 「何で最後ホラー口調なのよ」 ほのかさんが、みうちゃんに突っ込む。 「怖い話だったのでつい。そういうことあるんですね」 「そんな事はほんと稀よ。まあ、そこまでいかないけど、決まった曜日・時間に来て、こっちを見てるとか、週に1、2回のペースでお店に来る、って言う話は耳にすることはあるわね」 「はぁ~、そういうのがあると落ち込みますよね」 「そういうのは稀なケースだから。そこの百貨店、気の毒ね」 少し落ち込んでいるみうちゃんの頭をほのかさんがなでる。 「私はそんな経験ないですけどね」 「ないにこしたことはないわよ」 まあそりゃそうだなあ。 「・・・そういえば、のぞみ。お隣さんが引っ越してきた、って言ってたわよね?」 「え?あ~、そうなんですよ。大学生くらいの若い男の子で。引っ越しのご挨拶の手紙をもらいました」 私はバッグから手紙を取り出し、ほのかさんに手渡した。 「今どきの子には珍しいわね」 「そうですよね」 みうちゃんが手紙をのぞきこむ。 「へぇ~、キレイな字ですね。小学校の頃よく書きましたよ。返事は書いたのですか?」 「どうしようか迷ってる。書いたら面倒なことになるかなぁ~」 「やめときなさい。返事を書いて変に続いてしまったら、家で落ち着けないわよ」 そう言った後、ほのかさんは店員さんに飲み物の追加を注文する。 みうちゃんもついでに注文したので、私も同じのを、と付け加える。
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