二日目

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少し遅めにとった昼食がこなれて来た頃、愛用の鞄を背中に回しスニーカーの紐を結び直す。 頂上は通り過ぎているが、高い夏の日差しはまだ健在だ。 昨日よりは早い時間。もしかしたらあの人は、まだ来ていないかもしれない。 日差しとか、苦手そうだもんな……。 非弱そうという意味ではないが、白い肌の印象は強い。 そう思うのなら昨日と同じ時刻に向かえば良いのだが、微かな期待にいそいそと準備を始めたのだ。 あれだけの絵を描くのなら、それなりに時間も必要だろう。 もしかしたら彼は日中からあの場所で、好んだ風景を書き留めているのかもしれない。 「いってきます!」 「はいはい、夕食までには帰るのよ」 気をつけて、と顔を覗かせた母さんに軽く片手を上げ、昨日と同じくアメンボを追いつつ道を辿る。 訪れた道の終わり。今回は立ち止まることなく小山へと足を向け、茂る草木へ踏み込む。 昨日、自分が踏みしめた跡だろう。茂みの中で見つけたへこみを辿りながら、木々の中へと潜っていく。 「あ、すずし」 伸ばされた木々の枝が、照りつける日差しから自身を覆い隠してくれた。 日向よりも低い温度に一つ大きく息を吸い込み、ツウ、と流れた額の汗を首にかけたタオルでぞんざいに拭う。 一歩一歩進む度に、強くなる蝉の声。 「ここ、だったよな」 連なる木々達の中の、一際大きな木の下。 茂みの中にぽっかりと現れた空間が、昨日俺の倒れこんだ箇所だ。 ここの箇所は不思議と芝が多く、踏み入れる人を拒むような気配はない。
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