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「あの、昨日はありがとうございました。タオルも」
「いえいえ、大したモノじゃないから」
昨日は特に意識していなかったが、髪と同じく瞳の色も澄んだ茶褐色をしている。
元々、色素が薄い人なのだろう。
平々凡々な黒髪黒目の俺にからしたら、どちらかの要素だけでも頂きたいものだ。
って、すっかり本題から逸れてるな。
「お礼って程でもないんですが……」
気を取り直して取り出したのは、包装紙にくるまれた小さな箱。
"あげる"と言われて受け取ったタオルを洗って返すかどうか迷ったのだが、見ず知らずの誰かの汗を大量に吸ったタオルなど返されてもかえって迷惑だろう。
代わりのモノを持参すべき所だろうが、知っての通り近場に小洒落た店なんかない。
考えぬいた結果、自転車を走らせて一番近い商店で目にとまったフルーツゼリーを買ってきたのだ。
「苦手だったらスミマセン」
どうぞ、と差し出した箱に、その人は困ったように眉根を寄せる。
「そんな、気にしなくていいのに」
それでも頑なに差し出し続ければ、根負けしたその人は仕方無さそうに苦笑してゆっくりと受け取る。
膝の上に乗せ、そんな慎重にならなくともと突っ込みを入れたく成るほど丁寧に包装紙を剥がし、そっと蓋を外す。
開かれた先には、緑とオレンジのゼリーが二つ。
「すごい、美味しそう」
「喜んで貰えたなら良かったです。安物ですけど」
「タオルの方が安いよ。とんだ"たなぼた"だね」
ラッキーだ、と笑うお茶目な物言いにも面食らったが、取り出されたクロッキー帳に目を見張る。
え、まさか。
「……描く、んですか?」
「うん。せっかく貰ったものだし」
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