二日目

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「美味しそう?」 小首を傾げて尋ねる姿には、妙な可愛げがある。 子供っぽい、と言った方が正しいのかもしれない。 意外、と心の中で吹き出しながら、俺は大きく頷く。 「はい、美味しそうです」 「なら、合格点だね」 満足そうに微笑むと丁寧に蓋を戻し、壊れ物を扱うようにそっと鞄の中へ収める。 別に、多少乱雑に扱った所で崩れるものでもないのにと呆れる反面、何とも言えないむず痒さが広がる。 この感情は何なのだろう。 「家は、この上ですか?」 何の脈絡もない唐突な問いかけは、この人へ湧いた興味。 それを口に出来たのは、一連の行動で少々浮ついていたからだ。 「うん。青い屋根が見えるでしょ? あそこ」 指差す方へ首を捻ると、枝葉の隙間から空よりも深い青が何とか確認出来た。 夏の間だけということは、別荘か別宅か。 金持ちか、と認識した途端に感じた壁に姿勢を正す。 「残念だけど、所有物じゃないよ。借りてるだけ」 どうやら俺は本当によく表情に出るらしい。 そんな顔しないでよ、とその人は小さく吹き出す。 ……どんな顔してんだ、俺。 「だから、軽率に遊びにおいでって言えないんだ」 「……その話はもう大丈夫です」 「そっか、残念」 もう少し知りたいのかと思って、と目を細めるその人は、案外底意地が悪いのかもしれない。 念の為気をつけよう、と気を引き締めた俺を見て、面白そうに小さく頷く。 「うん、警戒心は大事だよ。いい人ばかりとは限らないからね」 「……それ、ツッコミ待ちですか?」 「本当の事を言ってるだけだよ。まあ、"いい人"か"悪い人"かの基準なんて、見方によりけりだけど」 んー、と一度伸びをしたその人は、例えばねと言葉を続ける。
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