三日目

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「……こうして最期まで全う出来て、こんなに悲しんで貰えたんだ」 乗せられた掌が、あやすようにポンポンと上下する。 「"あの子"は充分、幸せだよ」 茶褐色の瞳は慈しむように淡く光り、口元は綺麗な弧を描く。 ……わかってる。 この人は"大人"で、"子供"のようにぐずり出した俺を慰めてくれているだけ。 そんな事は、わかっているのに。 「っ」 ……どうして、そんなかお。 俺を見つめる瞳は優しいのに、込めた熱さに絡め取られる。 逸らせない。 まるでキツく縛り上げた縄を引かれているかのように、視線を彼以外へ向けることは許されない。 髪越しに伝わる温度なんてほんの微かなものなのに、熱くて、熱くて、堪らなかった。 それは、徐々に心臓へ。 「……ありがとう」 「っ、なんで、お礼なんて」 苦しい、苦しい、苦しい。 「……キミは、繰り返しのような毎日を。それだけだと思っていた"世界"を、変えてくれた」 声が、仕草が、表情が。 心臓にじわりと染みこんで、血液から酸素を奪っていく。 っ、なんだ、これ。 繰り返す呼吸は浅く早く、それでも収まる事を知らない鼓動が"もっとだ"と訴えかけてくる。 一体何を、求めるのか。 今なら、その答えが分かるのに。 「たった三日だったけど。本当に楽しかったんだ」 「っ」 唐突に切り出された話題に、ひゅっと小さくなった喉。 徐々に冷えていく思考が、段々とクリアになってくる。 ああ、そうだった。 朝からずっと、覚悟していた筈なのに、すっかり忘れてしまっていた。 どんな日々だって、必ず終わりはやってくる。
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