四日目

2/7
前へ
/41ページ
次へ
どうやら俺の神経は、思っていたよりも随分と図太かったらしい。 布団を頭まで被って、こっそり泣いて。 眠気など微塵も感じない身体に、きっと朝までこうして言い得のない虚無感に耐え続けていくのだと、そう思っていたのに。 いつの間にかブラックアウトしていた思考にが再び浮上したのは、鳴り響く蝉達の声に重たい目蓋を開けた時だった。 ……そういえば、"蝉時雨"って、早朝と夕方だったな。 窓から差し込む、弱くも目に痛い光。 逃れられない時の流れが、容赦なく最後の日を告げる。 「……いま、行っても、いないだろうなぁ」 確認した時計の針が示す時刻は6時前。 家の中の静けさ同様、あの人だってまだ布団の中だろう。 「……バカだな、俺」 自嘲気味に鼻で笑って、コロリと寝返りをうつ。 昨日、きちんと別れを告げて来たのに、どうしてこうも"また"と心が騒ぎ立ててしまうのだろう。 冴えた脳で二度寝が出来る筈もなく、ただ息を潜めやり過ごして迎えた家族の起床後は、例年通りバタバタと忙しない。 近所の爺ちゃん婆ちゃん達へ挨拶に回っては、また来年も待ってるからねと振られる手に曖昧に笑んで頭を下げる。 チラリ、と。 捉えたいつもより遠い小山は相変わらず立派な木々が時折枝を揺らしている。 隙間から見える青い屋根。 あの人は今、あの家の内だろうか。それとも。 「ほら! これも持っていきな!」 「っと、ありがとうございます」 ボンヤリとした思考は唐突な腕の重みで引き戻され、頭を下げる家族と一緒に次の家へと歩を進める。 巡回が全て終了する頃には、引いた自転車の籠いっぱいの特産品の山。 帰って暫くの食卓は豪華だ。 野菜が盛り沢山の食卓を思い浮かべ誤魔化すように平穏を装うが、つい歩く速度が早まる。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加