四日目

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「はい、お疲れさま! 荷物は車に積めちゃって!」 「うん。……あのさっ!」 帰宅して一番最初の俺の仕事。 力仕事は任せた、と家へ上がる母さんを呼び止める。 「出発まで、どれくらい時間ある?」 「え? えーと、まぁ30分後には出たいわね」 頷いた俺を特に気に留めることなく消えていった背。 出発まで、"あと"30分ある。 「っ、」 大急ぎで大根やらジャガイモやらをトランクに詰め込み、無造作に靴を脱ぎ捨てると自室用にと割り当てられた和室へ駆け込む。 いつもは直前に荷物を纏めるが、今回は昨夜の内にやっておいて良かった。 「母さん! ちょっと出てくる!!」 「は!? ちょっと、」 「時間までには戻ってくるから! 荷物は全部積んである!!」 焦りを含んだ声が制止する前に身ひとつで飛び出して、目指す場所は言うまでもない。 今日は、あの屋根の下から見送ると言っていた。 居ない可能性の方が高いなんて、百も承知だ。 それでも、ほんの僅かな希望に賭けて、全速力で風をきる。 ……仮にあの場に居たとして、俺は一体どうしたいんだ。 口を大きく開けて、繰り返す荒い息。 高ぶる心臓と熱くなる身体とは反対に、語りかけてくる冷えた思考。 ……答え、なんて。 "どうしたい"のか、なんて、"俺"にだって分からない。 ただ、胸の内から心が強く叫ぶのだ。 "彼に、どうかもう一度"
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