四日目

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「っ、しんど、」 周囲よりも草の沈んだ坂。 休息を求める重い足を無理やり動かし、休むことなく登りゆく。 少しでも多くの酸素をと大口を開ける様は非常に滑稽だと思うし、水分を含んだティーシャツだって背中に張り付いている。 それでも。 頬を滑り落ちていく大粒の汗も拭うことなく、ただひたすらその場所を目掛けて。 「つ、いた……っ!」 ゼェハァと息を切らしながら辿りついたいつもの空虚に安心した身体。 両膝に付いた掌で崩れそうな上半身を支え、グッと顔を上げ辺りを見渡す。 目に入るのは背丈のある草達に、影を落とす木々。 耳に届くのは変わらず片割れを待つ様々な蝉達の哀愁の歌。 求めたものは、何一つ。 「……だ、よな、」 分かりきっていた事だ。 約束もなく、"来ない"と告げて、会った事のない時間に。 簡単な事なのに、どうして夢見てしまったのか。 「、戻らないと、」 転がりそうになる身体をふらつく足で必死に踏ん張り、停止した思考に呼びかける。 身勝手な感傷に浸っている場合じゃない。 本当に、さよならだ。 「どう、して……っ!?」 「!?」 喧騒の中を切り分けた澄んだ声。 勢い良く上げた視線の先には、息を切らしたその人。
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