四日目

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「な、んで」 聞かれていたのは自分の方なのに、信じられない光景に絞り出たのは嬉しさよりも同じ疑問。 今日は、来ないんじゃ。 続けたかった言葉は音になる事はなく、感じた衝撃に飲み込む。 遮られた風と、背中に回された温かさ。 数秒かかってやっと、抱きしめられているのだと。 「っ!? あの、汗つく、」 「もう、来ないと思ってた」 「、」 力を込められた腕は俺の弱々しい拒絶なんて物ともせず、掠れた声が感情の全てを奪い取る。 「会いたかった」 たった、一言。 それだけなのに、その言葉は心臓を強く強く揺さぶる。 だって。 「……俺も、」 「、」 「俺も、会いたかったんです」 ああ、ダメだ。 「……会えて、よかった」 不安、期待、安堵、葛藤。 押し込めていた様々な感情がぐちゃぐちゃに絡み合って、目の奥から溢れ出してくる。 異変に気がついたその人は身体を少し離して俺の顔を覗き込み、納得したように苦笑を零す。 「……泣かないで」 「、すみませっ、」 困らせたい訳じゃないのに。 止めようとすればする程、次々と流れ出る雫。 そっと目尻を拭ってくれる優しい指先も、助長する要因の一つだ。
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