四日目

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「……こんなに辛い別れは初めてだよ」 片腕は俺の腰に回したまま、もう片方の掌がそっと頬を包み込む。 彼独特の、少し低い体温。 それでも見上げた俺を見つめる瞳は、焼けるように熱い。 「……もう、行かないとだね」 「っ、」 スリ、と小さく頬を撫で、振り切るようにキツく目蓋を閉じたその人が身体を離して半歩下がる。 昼の高い日差しから生まれた影がザワザワと揺れて、立ち竦んだままの俺達を急かす。 「……さようなら」 軽く頭を撫でて、その人は俺の方へ手を添えクルリと向きを変えてくれる。 そっと離れた重み。 ああ、コレで本当に。 「さようなら」 軽く振り向いて作った笑顔に、返されたその人の笑顔。 今まで見たどれよりも温かい表情をしっかりと目に焼き付ける。 キツく拳を握りしめ、しっかりと一歩を。 この獣道も数日で無くなってしまうだろう。 「一つだけ!」 「っ!?」 響いた声に、振り返る。 いつもは見送る木々だけだった其処に、見下ろすその人の姿。 強く強く、眉を寄せて。
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