五日目

5/7
前へ
/41ページ
次へ
あの日、あの人が書き留めたこの一匹と、先程埋葬した一匹は同じ種類だったのだろう。 よくよく思い出せば確かにあの時の一匹も、綺麗な緑を持っていた。 「……こっちにも、居たんだな」 オレの記憶が確かなら、此処から先はオレの知らない「あの人の記録」だ。 「全部描いたら送る」と言っていた彼は、一体何を書き留めたかったのだろう。 万華鏡を覗きこむ瞬間のように浮つく心で捲り上げた次のページ。 現れたスケッチに、思わず息を飲み込む。 白い紙面の中で、こちらへ笑みを浮かべていたのは。 「……嘘、だろ」 紛れも無い、オレ自身。 まさか、と捲り上げた次のページには、どこか遠くを見ているオレの後ろ姿。 そしてその次のページにも、次のページにも。 切り取られた『あの時のオレ』が、一枚一枚丁寧に描かれている。 「ど、して」 息が、出来ない。 激しく支配する心臓とせり上がってくる熱い感情で埋め尽くされた胸が苦しくて、薄く開いた唇の間から乾いた呼吸を繰り返す。 彼にとってオレの存在は、偶々会えたちょっと手のかかる、ほんの一夏の思い出なのだと。 オレが抱いた感情は一方的な恋慕で、あの人は、親戚の子供程度にしか思っていないのだと、そう思っていたのに。 「……っ」 再び指先が止まったのは、捲り上げた最後の一枚。 そこに描かれた黒は、封筒と同じく流暢な文字。 『無事、手元に届いたかな。遅くなってごめんね。  描きたいモノが多すぎて、少し時間がかかったんだ。  これを見たキミはきっと呆れるんだろうなって、その顔を思い浮かべながら描くのは、とても楽しかったよ。』 「……なんですかソレ」 せっかくの手紙なのに意地悪じゃないかと、つい不満が漏れる。 『キミと出会えたのは本当に偶然で、とてつもない奇跡だったんだ。  日常の中では絶対に起き得ない、心からの幸福を感じた。  欲を言うなら、もっともっと、沢山の時間を共有したかった。』 「っ、」 綴られた文字に、ドキリと心臓が跳ねる。 これでは、まるで。 いや、そう思ってしまうのも、都合のいい解釈なのだろう。 けれども僅かな期待に胸を高鳴らせ、追った次の羅列に、息が止まる。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加