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芯が溶けていく両足を無理やり動かし、震える腕に力を込めて玄関を出て裏庭へ。
フラつく足取りを止めたのは、先程作った小さな山の前。
そこに、眠っているのは。
『さようなら』
「……っ」
視界が霞む。
何一つ理解などしていないのに、この雫は一体何処から込み上げてくるのだろう。
ただひとつだけ、はっきりとしているのは。
『僕が此処で呼んでいたのは、紛れも無く、キミだった。』
「っ……、あいたい……」
止めどなく溢れ落ちる感情が、湿った焦げ茶を黒くする。
会いたい、会いたい、会いたい。
こんなにもたった一つだけを強く強く祈るなんて、初めてで、きっと最後。
「あいたいよ、"ひぐらし"さん」
あなたがあの場で呼んで、呼んで。
だからこそ引き寄せられた出逢いだったというのなら。
「……こんどは、オレが、よび続けますから……っ!」
どんなカタチでもいい。あなたが見つけてくれるなら。
この生命尽きるまで、ずっと、あなたを呼び続けるから。
「また、夏を過ごしましょう。他の季節も、一緒に」
あなたは紛れも無く、オレの唯一でした。
遠くに聞こえる初秋の声。
生まれ故郷で眠る彼は、もう、鳴かない。
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