一日目

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純粋な疑問が五割、やっかみが五割。 そんな事とは露知らず、暑いよ? と不思議そうに返したその人は、一呼吸おいてからああ、と小さく頷く。 「汗はあまりかかない体質でね」 俺の問いかけの理由を、汗の有無だととったらしい。 わざわざ訂正する気も起きなくて、適当に相槌を打つ。 「そうですか。羨ましいです」 「そう? でも汗によって、体温を調節しているらしいよ。そのまま放置していると、風邪をひいてしまうみたいだけど」 そう言ってその人はしゃがみ込み、足元に置いていた黒いリュックから一枚のタオルを引っ張りだす。 はい、と差し出されたそれの意味が汲み取れず眉を潜めた俺に、その人は笑顔のまま付け加える。 「あげるよ。まだ未使用だから、安心して」 「え、そんな。大丈夫です」 「年上の言う事は聞いておくものだよ」 社会人、なのだろうか。 妙な説得力のある物言いに、グッと言葉が詰まる。 無言のまま受け取ろうとしない俺に苦笑して、その人は立ち上がりながら手にしたタオルを俺の首元へ。 「うん、似合う似合う」 突き返してしまえばいいのに、それが出来ないのはこの人の持つ穏やかな空気のせいだろう。 「……タオルが似合うって何なんですか」 情けない、と心の中で自身についた溜息を誤魔化すように、良くわからない世辞に口を尖らせる。 フカリとした感触。伝う汗に頬を埋めれば、一瞬で消えていく。 「ここは、いい所だね」 俺の様子に満足したように目を細めて、その人は数歩前へ進むと遠くを見つめながら歌うように言葉を紡ぐ。 「キミ、この辺の人じゃないだろう? 初めて見た顔だ」 口元は弧を描きながら振り向き、向けられた瞳。 沈みかけている夕日のせいだろうか。 妙な透明感のある眼が、知らない光を反射する。 今まで見たことの無い色。 すごくすごく、綺麗な。 「……祖母の家に、四日間だけ」 催眠術をかけられたかのように、口が勝手に応えを紡ぐ。 その人はそっか、と小さく頷いて、視線を再び遠くへ。 どうしてそう思ったのかとか、そう言うそっちはどうなんだとか。 脳では疑問が渦巻いているのに音にはならず、どこか夢心地のままその人をボンヤリと見つめる。 「……休暇、ですか」 何とか絞り出した声は、蝉達の声にかき消されそうなくらい小さい。
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