第 十章 悲しき道化師

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《イェンシング・ディグニツァライド…》 一人の老人が音も無く二人の前に立っていた…… 薄汚れたローブを纏い、槝の木の杖を持った老人が…… 「塔の主!!」 《儂は主では無い……只の代理人だ……砂漠で主に拾われ調整された原始人……お前達と同じ存在だ……》 ソープはスタイルに変化しかけるが、イェンシングがそれを引き留める。 「待ってたもれアマテラス! 数千年間、相手にもしなんだ妾達の前に現れたには訳があるはずじゃ!」 「確かに……」 《………間もなくこの星は宇宙の塵となり 我も安らぎを得られる……我は主より知性と自我を与えられ、その目的の為に永い年月生きて来た……50年に一度の娯楽を糧にな……… その我が死を前に主に初めて願い事をした…… 判るか………? 》 「まさか……!?」 イェンシングは初めて話す異形アンノウンとも謂うべき老人に感情が有り、同じヒューマノイド基礎の存在と知りある希望を持った。 「人類 延いては汝と妾達 超越者クラスの存命か!? 汝の主と共に星船にて外宇宙へ………」 イェンシングは最早自らの願いに浸り過ぎ、理性的な思考を失っていた。 《希望の成功例 人類の文明の導き手の一人たる女皇帝も所詮はそのレベルか………。》 キョトンとするイェンシングを傍らに ソープの顔が険しさを帯びる。 「愉悦死 快楽死か……」 老人の眼差しがおぞましい程の悪意に染まる。 《流石 主の興味を惹いた種族の作品。 理解力に優れておるな………》 老人の纏う空気が邪悪で禍々しく変貌してゆく…… 《我は疲れた……生まれてより…人類の……世界の歴史の全てを観………その全ては我にとり 絶望の流れる河 にしか見えなんだ……ただ人間が苦しみ 悲しみ 苦悩する様のみが刺激的で快楽的であった……》 「塔の主の最初で最後の贈り物か……」
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