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それでも、友達として心配してる、気遣ってくれているというスタンスは崩さなかった。それは野上が現れたあとも、つむぎが生まれてわたしが野上と結婚したときもずっと変わらなかった。だから信頼していたし、ずっと付き合いが続いてきたと言ってもいい。
そんな気があるんなら、ちゃんと表明すりゃよかったんじゃないか。今更そんなこと急に言われても。てか本当、今さらだよ。遅いっつの。
でも、そう言いたい気持ちをぐっと抑えて、何かこの場を凌ぐ言葉を探す。うっかり、じゃあそう言えばよかったのになんて言おうもんなら、絶対今からでも面倒くさいこと延々と言いだしそうな気がする。これは上手いこと話をずらす方法を考えるしかないだろう。
「…友明さぁ、そんなこと言うけど」
わたしは場の空気が和らぐことを期待して宥めるように話しかけた。
「あんたっていっつも充分モテてたじゃん。大抵誰かしら可愛い女の子と付き合ってたし。ってか、ついこの間も見たよ。まりさが元奥さんの方にいる時にさ、こっから朝帰りの女の子出て行くの。…ずいぶん若い子だったね」
友明、やるなぁと思って、内心で口笛吹いたもん。
友明は少したじろいだ。
「や、あれは…ちょっとくらいいいだろ。一応独身なんだし」
「誰も悪いなんて言ってないよ。あんなに独身を謳歌してるのに、あたしのことなんか別にこだわることないんじゃないかと思ってさ。どうでもいいじゃん」
「いや、どうでもよくはない」
急にまなじりを決してわたしをきっと睨む。上手くいなしたと思ったのに、なんか話が戻りそう。
「ああいうのは全部遊びだから。向こうだってそうだし、勿論俺も。…俺が好きなのは、ずっと」
「それを言ってどうなる」
思わず後ずさりしたくなる。実際はカウンター席に座ったままだけど。
「なんか、今さら…、そんな話してもさ。どうにもならないじゃん。だったらこのまま、お互い何も言わず聞かずに終わった方がよくない?」
「そんなことは俺だって…、わかってはいるんだけど」
友明は切なそうに言葉を絞り出した。
「俺だって自分でも、とっくに吹っ切れたと思ってたのに。…あんなん、聞かされちゃうと…、もう」
ため息をつくように吐き出した。
「正直…、キツい」
すみません…。
結局そこに戻るんですね、話。
やっぱり忘れては頂けないか。まぁ迂闊は迂闊だった、確かに。 それは認める。
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