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バタバタバタ、ぴょ~~ん。
「おおーい!」
なんだそれは。その場で小さく跳ねていたカエルかウサギがホップステップしながらジャンプして前に進んだって感じだぞお前。それは何の競技だよ。2年も空手の稽古をしてきたのに摺り足さえもろくにできないなんて、どんだけ運動神経がのんびりしているんだ。
目が潰れそうって言葉はこんな時に使うんだろう、多分。あまりにも鈍い動きを見て、眼球の奥がキューッてなった。
「竜太、ステップいらない。そんな暇あったら直ぐに相手が突いてくる。1で前に出るんだ。はい構えて……始め!」
ぴょ~~~~ん!
「おおーい!」
「竜太、一歩で前に行くのは出来たけどジャンプしながらはダメだ。動きが遅い。体を浮かせずに摺り足でスッと前へ行け。出るスピードが速い」
「はいっ!」
「一瞬で爆発的に相手の懐に飛び込んで突きだからな。前日にあれこれ教えて明日の試合に練習の成果が出なかったら元も子もないから、今日の練習はこの動作だけをマスターしよう」
「これだけ?」
「そう、今から2時間これだけ。確実に1つ必殺技を身に付ける。必殺技だぞ? どうよ格好良いだろ」
たったこれだけと怪訝そうな顔をしたくせに『必殺技』と聞いた途端にその場でグルグル回ってはしゃぐチビ。必殺技、必殺技、百烈ニャンニャン拳、と何度も雄叫びを上げテンションMAXの様子を見て目を細める俺。
言葉は使いようだな、まだまだ単純な脳みそで助かった。摺り足で前に飛び込んで突きなんて、いつも道場で稽古をしている基本中の基本だぞ。
小学生相手にどんな会話をしたらいいのやらと意識してしまい妙な仏頂面を通していた俺の顔が少し緩んだ。
「よし来い! 明日は1ポイント取りに行くぞ! やられる前にやるんだ!」
「はいッ!」
ザッ、バンッ!
僅かに浮かせた足の裏が畳の表面を擦り、俺の間近で力強く踏み鳴らす。
1突きが終わる度にキャッキャとはしゃぐ。別段面白い練習をしているわけじゃない。至って平凡、至って基本。なんでこんなにご機嫌なんだろう。ガキンチョってやっぱり難解な生き物だ。
ザザッ、バンッ!
「いいぞ、突いた拳を素早く引いたら完璧だ」
「はいっ!」
ザザッ、バンッ!
「いいね、けど後ろ足が着いてきてない。残心が大股開きだから次は気をつけよっか」
「はいっ!」
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