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真っ直ぐお父さんと見つめ合う。
「お、おい……」
水瀬千明が私に声をかける。
そんな水瀬千明の肩を如月勇気が掴んだ。
「生徒が作ったお菓子が美味しければ授業をして下さる。そういうお約束ですよね?」
「ああ」
「だったら食べて判断して下さい」
「食べなくてもわかる。俺にはお前達のような未熟な奴らに何かを教えている時間なんてないんだよ」
「食べてないのによく分かりますね?それに忙しいアピールですか?さすが、有名なパティシエール様は言う事が違う」
「く、熊谷くん!!」
スーツ姿の男の人が私に近付いてくる。
その男の人を手で止めるお父さん。
「実際俺は忙しいんだ。千明に何かを教えて何になる?俺の顔に泥を塗る事になるかもしれないのに」
「何言ってるんです?貴方は貴方。千明くんは千明くんです。このお菓子は貴方の名前で作られたものじゃない。千明くんが作ったものです。『貴方の』じゃない。『千明くんの』ものだ」
「だから?」
「貴方の顔に泥を塗る?そんなことない。千明くんは貴方より凄いパティシエールになれます」
「その根拠は?」
「そんなものありません。これは僕の直感です。ていうか、さっきからグダグダうるさいですね。さっさと食べて下さいよ。あれ?もしかして怖いのかな?『自分より美味しかったらどうしよう』って。本当は僕達に授業をして、追い越されるのが怖いだけだったりして?」
挑発するように笑うとお父さんは顔を引き攣らせた。
それから水瀬千明の持っているお皿からクッキーシュークリームを1つ取った。
「怖いだと?そんなわけあるか。俺を追い越せる奴なんていないんだよ。こんなシュークリーム、どうせ旨くないに決まってる」
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