君を好きになったアップルパイ

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ていうかここって、莉央達の教室兼調理場だ。 懐かしいな。 キョロキョロしていると千明くんが冷蔵庫から何かを持ってきた。 それは私が千明くんと初めて会った時に食べたアップルパイ。 「あのときの!!」 そう声を上げると千明くんは小さく吹き出した。 「そうだよ。莉愛にいつか食べさせるって約束だったから」 「でも一度授業で作ったよね」 「でもあれはみんなで作った物だから。俺が作ったの食べてほしくて」 千明くんからアップルパイを受け取ると私は一口食べた。 それは私が千明くんを好きになった時の記憶を呼び覚ますには十分だった。 「おいしい……」 「良かった。実は俺達のクラス、アップルパイを売ってるんだ」 「え?」 「熊谷が提案したんだけど、クラス全員が賛成して。お父さんが授業してくれたこともあって自信があったんだと思う。それでこれは俺が個人で作ったやつ」 「私のために?」 「うん」 千明くんの気持ちが嬉しくて泣きそうになる。 私、この人を好きになって良かった。 「あのとき莉愛に出会ってなかったら今の俺はいないと思う。お父さんとの関係も莉愛が改善してくれた。俺にとって莉愛は神様みたいな存在なんだ」 「神様ってそんな壮大な……」 「だから俺、これからもずっと莉愛と一緒にいたい。今はお父さんの仕事場でしか会えないけど、卒業したら自分の店持つこと決めたんだ」 「え?」 「そんな簡単に自分の店なんてもてないのは分かってる。だからすぐには無理だけど、しばらくはお父さんに修行つけてもらって海外にパティシエ修業しに行くことにした」 「そうなんだ……」 「だから莉愛にお願いがある」 「お願い?」 ・
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