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そう言って1口食べるとお父さんは固まった。
「どうです?貴方の息子が作ったクッキーシュークリームは。誇らしいでしょ?」
「クッキー生地とシュー生地はよく出来ているが、カスタードがいまいちだな」
ズガンと何かで頭を撃ち抜かれたような衝撃がはしる。
私はゆっくりお父さんを見上げた。
「えっと……。それ、僕が作りました……」
「は?」
「で、でも!シュー生地はよく出来てるって言いましたよね!?それは千明くんが作ったものですよ!?」
「千明が……」
お父さんはクッキーシュークリームを見つめると千明くんを見た。
「少しは成長したようだな」
「お父さん……?」
「だが、俺には程遠い。俺を越えたいならもっと精進しろ」
「っ!は、はい!!」
嬉しそうに目を輝かせる水瀬千明。
私はそんな水瀬千明に笑いかけた。
「で?このカスタードは君が作ったのか?」
「うぐっ!?」
後ろから冷たい声が聞こえる。
恐る恐る振り返るとお父さんが不気味に笑っていた。
「こんな腕でよく俺を挑発出来たな?」
「それは、そのー……。千明くんを真っ向から否定するから……」
「他人の家庭に口を挟むのはあまり良くないと思うが?」
「それはそうですけど……。親に存在を否定される辛さは、よく分かりますから……」
「何?」
「ちゃんと千明くんを見て欲しかったんです。千明くんは凄いぞって、千明くんは絶対凄いパティシエールになれるんだからって。だって千明くんは……僕とは、違うでしょう……?」
こんな辛い思いをするのは私だけでいい。
私には何の特技もないけど、水瀬千明は違うから。
今日、お菓子を作ってる水瀬千明は輝いてるように見えたから。
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