『お前は見込みがある』

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「お父さん……」 水瀬千明がお父さんに対して口を開く。 お父さんは水瀬千明を見て、それから手元を見た。 「千明はもうメレンゲを作り終わってるが……。そんなに難しい作業でもないのにいつまでその作業をしている?電子レンジの方がよほど役に立つな」 チ.ク.ショ.ウ!! 「電子レンジには起こり得ない『愛情』という名の化学変化を引き起こしているんです!!もう少し待ってください!!」 「ぶっ……ふ……っ」 隣で如月勇気が堪えきれなかったのか吹き出す。 凄く蹴りたいが我慢しないと。 「へぇ、そう。俺は『もう十分溶けてる』と言いたかっただけなんだけどな」 「それ早く言ってくれません!?」 嫌味な笑みで私を見下ろすお父さんを思わず睨んでしまう。 綺麗な顔した悪魔だ、この人。 「水瀬さん。コッチの確認お願いします」 遠くからお父さんを呼ぶ声が聞こえる。 お父さんは声の方へ向かった。 私は如月勇気に解けたチョコレートを渡しながらため息をついた。 「いやー。面白いね、熊ちゃん」 「……全然面白くない」 「ごめんな、熊谷」 申し訳なさそうな水瀬千明。 私は慌てて首を振った。 「違う違う!!みな……、千明くんは何も悪くないよ!!僕こそごめんね……」 足を引っ張ってるのは間違いなく私だ。 如月勇気は手順を全く無視したりするけど、出来上がるお菓子はどれも美味しい。 水瀬千明なんて天才だ。 完璧な2人に申し訳なさが込み上げてくる。 きっと莉央なら完璧にこなしちゃうんだろうな。 何とか生地を型に流し込みオーブンに入れる。 後は焼き上がりを待つだけだ。 オーブンに入れたガトーショコラを見つめながら思い出すのは、莉央がバレンタインの時に作ってくれたカップのガトーショコラ。 中学でモテモテだった莉央が、私のために作ってくれたそのガトーショコラは忘れられない。 『僕は莉愛が美味しそうに食べてくれるのを見れるだけで嬉しいんだ』 莉央は私を嫌ってない。 莉央を危険にさらしたのは私なのに……。 .
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