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【Side 102 Room.】
「ちょっと待って、カメラを止めて下さい! いきなりそんな事を言い出されても困ります!」
テレビ出演なんて冗談じゃない!
『ヒマナンデス』という番組名だけは聞いたことがある。確かお昼の時間帯に放映している『ウッチャン何とか』っていうお笑いコンビの才能の無い方がメインキャスターを務めている情報バラエティ番組だったはずだ。俺は一度も見たことはないがそこそこ有名なテレビ番組だと記憶している。
もしこの放送をあのストーカーが見ていたら、俺の住所がバレてしまい再度引っ越さなければならなくなってしまう! 大体がこういった番組は「突然素人のご自宅に突撃っ!」と銘をうちつつも、予めきちんと出演する住人には声をかけているものではないのか?
それに何故このテレビ番組の司会者たちは俺の名前まで知っている!? 以前、引っ越し前に受けたあの陰湿なストーカー被害以来、俺は大学の友人たちにもこの家の住所を明かさず、ポストや表札にも名前を記していないのだ。
……まさか隣の部屋の女性が勝手に了承を?
俺は無言で隣の部屋の女性に視線を向けるが女性は「知りません、私じゃないです! せめて眉毛を描かせてください!」と言わんばかりに右手で額と眉を、左手で口元を隠しながらブンブンと大きく首を横に振って否定の意思を示している。
ふむ。どうやら隣の女性も何も知らないらしい。だったら何故……
困惑気味の俺に向かってマイクを手にしたこのコーナーの司会者であろう男女2人組が底抜けに明るい笑顔を見せたままその疑問に答え始める。
「ハッハー、驚かせて申し訳ございませんね。ハーイ、テレビの前の皆さーん! ほらほら、御覧の通りの反応です。このコーナーは一切のヤラセや仕込み無しでお送りしておりまーす!」
「大丈夫ですよぉ。放映時にはちゃーんと顔にはモザイク。名前部分には『ピー』が入るのでご安心くださぁーい。ふむふむぅー。男性の方は『どうして俺の名前を知っているんだ!』と、いったご表情をしていらっしゃいますねぇ。お答えしましょーう! それが『テレビの力』でぇーす!」
そう高らかに声を上げながら2人の司会者は「イエーイ」とハイタッチをして場を盛り上げようと道化を演じている。
勝手に盛り上げないでもらいたい。こちらのテンションは下がる一方だ。
何とか出演の辞退はできないものだろうか――
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