第1章

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 僕は、声優になるため日々養成所に通っている、22歳の若者だ。  大学在学中に、OB、OGの先輩を呼んで進路についての会があり、そこで声優として活躍している先輩のスピーチに感銘を受け、僕も声優になろうと決心したのが切っ掛けだった。  大学を中退し、親を説得し、現在はアルバイトをしながら養成所でレッスンという日々をおくっている。  入学金は親に全額払ってもらい、その分月々のバイトの収入を親に返済している。こんな生活を続けてもう少しで2年を迎えようとしている中、年末所属オーディションの時期がやってきた。  うちらの養成所は、そのまま声優事務所と直結しており、毎年6月と12月に事務所契約のためのオーディションが開催される。受かれば、事務所所属になり晴れて仕事をもらうことが出来るレベル、つまりやっとスタートラインにつける訳だ。  そのオーディションが明日に迫っているが、僕には大丈夫なのか?という不安がこみ上げていた。理由は、他の生徒は課題をスムーズにクリアしているのに対して、自分だけがいつもつまずいてしまい中々上手くいかないこと、講師の先生によく注意されてしまうことが原因だ。皆とは何かが違っているのか?それともそもそも向いていないのか?不安は募るばかりだ。  そしてこの養成所は、2年間で事務所所属とならない場合、自動的に卒業となってしまう。所属であれば、3年目の新人教育としてレッスンを受けられる他、レッスン費が免除される。僕の我が儘を聞いてくれて、学費を払ってくれた親に恩返しをするため、自分自身の夢を実現するため必ず受からなければならない。 しかし、現状をみるとどうしても不安で押しつぶされてしまいそうだった。  養成所からアパートに戻ると、入り口前に引越しのトラックが止まっていた。  誰か引っ越してくるのか?そう思いながら、自分の部屋へと向かうと、どうやら自分の隣に名も知れぬ誰かが入居してくるようだ。
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