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右手に温もりを感じた。ぬるま湯のような温かさはひどく心地良く、その感触にはどことなく懐かしさも感じられた。リッカ、だろうか。彷徨う意識をかき集めるようにして、僅かではあるがその感触を確かめるように指先に力を込めた、ところで、脇腹に強烈な痛みが走った。
「いっ!!?!」
「女の名前口にする元気あんならとっとと目を覚ませよ。んで、アディの手を離せ」
「え?あでぃ?……うわ!!?」
目を覚ましたトバリの視界に映ったのは自分を見下ろす見覚えのある包帯の男と、見覚えのない、青い瞳がやたらと印象に残る少女だった。どうやら自分が触れていたものはその少女の小さな掌だったらしく、脇腹の痛みに耐えながら飛び起きたトバリは急いでその手を離した。
そこで一つの違和感を覚える。もちろん、知らない人間に囲まれているのだからそもそも違和感しかないのだが、トバリが感じなければならない、あの痛みがなかった。斬りつけられたはずの場所を恐る恐る触れてみるも、そこには傷もなければ指の腹に血がつくようなこともない。一体どういうことだろうか。
痛みは、覚えている。目の前の男にだって見覚えがある。そしてなにより、自分が着ている衣服が赤黒く染まっていることが、あれは夢ではなかったと教えてくれていた。
「っリッカ―――リッカは!?無事なのか!!?」
「うるせぇな、クソが。アイツが全部説明してやっから黙って聞けよ」
「アンゴ、面倒になったら何でも僕に回すの止めてくれませんか。まぁいいですけど」
アンゴと呼ばれた包帯の男が顎で示した方向から、もう一人、背の高い男が現れた。包帯の男とは違い、物腰柔らかそうな雰囲気を纏った男はトバリの正面にしゃがみ込んで、こんにちは、と口端を上げる。新たな人物の登場で、トバリの緊張感が解れることはなかったが、その空気にのまれてトバリも思わずこんにちはと返事をした。
「まずは自己紹介から、ですかね。僕はノイン、それから粗暴な彼がアンゴ、君の隣にいる彼女がアディです」
ノインと名乗った青年は、微笑みながら包帯の男と青い瞳の少女の名を口にした。辺りを見回したところで、やはりここにリッカの姿はない。正直彼等の名前よりもリッカの安否が気になって仕方ないトバリに向かって、ノインはまた微笑んだ。
「彼女なら無事ですよ、トバリ君」
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