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彼女――つまりリッカが無事だと聞いてトバリは安堵の息を漏らした。しかし、良かった、と思えたのも束の間でそこでまた一つの違和感に気付く。顔を上げればノインは微笑んだままだったが、薄緑の瞳は少しも笑っているようには見えなかった。
何かを見透かされるようなその視線に、トバリは悪寒を感じた。
「君が底抜けの馬鹿じゃなくて良かったです。どうして自分の名前を知っているのか、という顔をしていますが、トバリ君は僕達の名前に聞き覚えはありますか?」
「…ない」
「そうですね。君は僕達を知らない。では、彼女の名前はどうでしょう。……ヒバリ・フォスカー」
ビハリ・フォスカー。自分と同じ顔をした彼女の名を、フルネームで耳にするのは久しぶりのことだった。トバリは自分の表情が強張るのを感じる。
「知ってるなにも」
「僕達は彼女とちょっとした知り合いでしてね」
「ヒバリと……?」
「ええ。彼女に頼まれたんですよ、君をとある場所まで連れて行って欲しいとね」
ヒバリは、トバリとは違い内向的で、いつも一人でいることが多かった。それを本人が好んでいた、というのもあるが、通常であれば彼女が誰かに何かをお願いすることは、想像しづらいことだった。誰かに何か頼むくらいなら自分の力で何とかしようとする性格を、トバリはよく知っていたから。
しかし、初対面のノインの言葉を、トバリは疑いもせず受け入れることが出来た。
「ヒバリに何かあったのか」
頭に思い浮かんだのが、あの赤髪の男のことだったからだ。
自分の顔を見てハカセと言った男。そしてあの惨状が起こるタイミングで送られてきた封筒。自分の知らない何かにヒバリが関わっている、それはもう明らかなことだった。
「とりあえず、今のところは彼女は無事です」
「とりあえずってどういうことだよ!?」
「彼女は頭が良すぎたと言いますか、運が悪かったんでしょうね。ある研究に携わり、そしてそこで問題を起こしてしまった。…あぁトバリ君、あまり興奮しないでくださいね。まだ馴染みきっていないでしょうから、昂ると、死にますよ」
説明すると言った割には回りくどい話に、トバリは苛立ちを隠せなかった。ヒバリに何があったのか、どうして町は襲われたのか、ハッキリ話せ、そう言おうとした瞬間、喉が焼けつくような痛みに襲われた。
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