Prologue -1-

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例えるなら、自分を閉じ込めた箱が展開されるように。 僕の視界には、僕自身が作り出したパースが広がってゆく。 敵ディフェンダーとの位置関係。 フェンスとの距離。 リオのいる位置との角度。 そして床、壁の材質と、ボールの大きさ、柔らかさを掛け合わせて弾き出した物理運動のシミュレーション。 あとは、コンマ1秒先に描く自分の理想的な動きを、ただなぞるだけの作業。 眼前の敵の目の前。 僕はボールの真上に靴底を押し付けてボールを止めた。 そして間を置かず、足を引いてボールをインステップに乗せる。 敵を交わすのは左右、どちらでもない。 上。 ふわりと放り投げたボールは敵の頭上を越える。 敵の視線が上に向いた瞬間、右前にステップを踏んで前に出る。 宙から地へ落ちるボール。 先程リューのボールを捌いた時のように、ストリートサッカーではボールの慣性をいかに殺さぬかがカギだ。 「リオ! 決めてやれ!!」 「オーケー、カイトッ!!」 トラップなんてシケた真似はしない。 ボールが地に着く前に、僕はダイレクトで左サイドへとクロスパスを蹴り込んだ。  
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