プロローグ ~未来の記憶~

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それは一人の少女だった。 透き通る白い肌。 一糸もまとわぬ姿で、 手と脚を無造作に重ね、 横たわっている。 広い額の下に二つの瞼が閉じられている。 あどけなさが残る口元は、 苦しげに歪んでいる。 「う……」 不意に彼女が呻いた。 少女は顔をしかめ、 薄く目を開いた。 そして身を丸めるようにすると、 右腕を伸ばしてゆっくりと体を起こした。 黒髪が華奢な肩から滑り落ち、 毛先が床に触れた。 少女は気だるげに目を擦り、 辺りの様子を窺った。 剥がれ落ちた壁。 引き千切れた配線の束。 横倒しの机。 画面が割れたコンピュータ。 そして、 ハッチが開いたまま転がったカプセル。 ーーーヴー、 ヴー、 ヴー… 気が付けば先程からけたたましく緊急警報が鳴っている。 「…ここはどこ?」 無意識に口走る言葉は呆然と吐き出された。
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