0人が本棚に入れています
本棚に追加
そこから何を見つめていた。
視線は濛々とたちこめる砂塵の向こうに注がれている。
――何……?
同時に、
全身を漲るような感覚が駆け抜ける。
少女の肉体が、
上気するようにほんのりと赤らんだ。
全身の細胞が機能を開始し、
血液は熱を帯びて変成していく。
それは少女自身が戦闘状態を自覚した時に発現する特殊な現象だった。
視線の先。
収まりゆく砂埃。
朧(おぼろ)げに黒い影が見える。
影は動かず、
少女をじっと見据えている。
やがて視界が開け、
影の実体が明らかになってゆく。
――獸、
か。
少女が「戦闘状態」を自覚した影の正体は、
双頭の狼であった。
最初のコメントを投稿しよう!