歯がゆい現実の迫間で

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 一哉くんが成長しているのは分かっているけれど、同時にまだ幼い子どものような部分も多くある。それは、どこか歪でありながら、ほの暗い魅力の部分でもあった。 「どこか危ういわよね、エドはそれが気になっているんでしょうね。涼さんばかりしか見えないと、涼さんを失った時に…失うというのは、男女の別れもあるけれど、彼にとっての涼さんとの心の距離のこともそう…。そうした時に、彼は折れてしまう。一つのことに一途になるのはものすごく強い力を秘めてもいるけれど、同時にとても脆いことでもあるのよ」 「別れなんて…」 「分からないのよ、人の心も人生も。ただ努力をしていくだけなの、できることは。それだって、時に思いも寄らない方向に行ってしまう。気持ちがあっても、環境が影響する時だってある。涼さん、あなた達は、芸能の世界で生きているわ。一般ならいざ知らず、自分たちではどうすることもできない環境に取り巻かれている世界よ。たくさんの人の思惑も、もちろんファンの目も、無数に増えていく世界よ」 「…」 「別に脅しているつもりはないわ。ただトーイくんが身を置こうとしている世界がそうだっていうこと。だからって、涼さんのために、トーイくんが音楽から離れることはできない。でしょう?」 「ええ…。彼の生きる世界は、音楽の世界です」  少しずつだけれど、バンドに向き合い、音楽の世界で自分の居場所を確立している一哉くん。 「エドが心配しているのは、トーイくんのひたむきさ。音楽と涼さんと、どちらかに優先をつけなくてはならない時だってある。その時に瞬時に音楽を優先できないようなら、この先、世界では…音楽の業界ではやっていけないわ。むしろ、彼の才能が彼自身を殺してしまう。だって音楽が彼を選んだのだから」 「…」 「トーイくんが危ういのはそこ。涼さんを引き止めておくためなら、彼はあなたのためになんでもやる。もしあなたに頼まれたら、…人殺しだって」 「それは…」
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