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あれから半年。
一哉くんが目覚めたのは事件から2ヶ月後だった。
その日のことは今も忘れられないほどの衝撃だった。
いつものように朝、一哉くんの病室に顔を出した。そこには、ぽっかりと目を開けて天井を見つめている一哉くんがいた。
そして入ってきた私に気づいて、不思議そうに言ったのだ。
「なんで、オレ、病院?」
「一哉くん…!」
奇跡が起きたんだと思った。
毎日毎日、大丈夫、明日は目覚めると言い聞かせてきた。その願いがようやく叶ったのだと思った。
「覚えてないの…」
「いや、…覚えてる。つか思い出した。涼、怪我は大丈夫?」
「私」
そこまで言って、私はこみあげてくるものを抑えきれずに泣き出した。自分より私を気遣う一哉くんがとてつもなく愛おしい。
驚いた一哉くんが体を起こした。
「ごめん、なんか…ごめん」
「ううん、ううん、嬉しい」
私は泣きじゃくりながら笑顔で、一哉くんの手を握りしめた。
「オレ…どんくらい?」
「2ヶ月」
「マジか…」
一哉くんは体を起こしているのが辛そうだった。ぼすんとベッドに再び仰向けに寝ると、大きく息をついた。
それもそのはず、筋肉も落ちているし、生体機能を維持するための栄養はチューブからだった。元のように戻るには、相当なリハビリが必要だった。
一哉くんは病室を見回して、ため息をついた。
「レコーディング、どうなってる?」
「一哉くんのパートを残して、録り終えてるよ。皆…信じて待ってる」
「そっか…。声帯の筋肉も皆取り戻さなきゃな…」
「うん…。大丈夫だよ、ゆっくり取り戻していこう?」
「涼…」
「はい?」
一哉くんが私の名前を呼んで、穏やかに微笑んだ。
「ありがとう」
「一哉くん…!」
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