歯がゆい現実の迫間で

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 今回のメジャーアルバム第1弾のプロデューサーに、レコード会社であるワールドジャパンの坂崎さんは、アメリカの著名ロックアーティストたちから絶大な信頼を得ているエドワード・ラニングバードにオファーした。  一哉くんの歌声を聴いたエドワードことエドは、ひそかに殲滅ロザリオのライブのために来日して、その場で坂崎さんたちにオファーへの快諾を出して決まった相手だった。  いつも冷静な司さんさえテンションがあがっていた相手だ、かなりすごいのだろうと傍目にも感じた。それほどの相手だ。  一哉くんは、最初の頃は、英語という壁もあって打ち解けていなかったものの、今はどこかお父さんと息子のような雰囲気で、時にぶつかりながらそれでも楽しげにレコーディングにのぞんでいる。  大事な時だとエドの青い目が私を見据えていた。  それは、何かのために自分を捧げて、何かを諦めたことのある、それに対して責任を引き受けてきた大人の目だった。  いまだ右手の薬指にはまったままのエンゲージリングを見つめる。  私の母に紹介し、互いの親同士を引き合わせる時間さえつくれず、籍を入れる余裕もないままアメリカはマンハッタンに来ていた。  一哉くんは、そのことをひどく気にしていた。せめて籍だけでも先に入れちゃおうという一哉くんを、多忙さを極めているのに遠慮して、まだ時間あるからとなだめたのは私だった。  丹野さんをサポートするアシスタントマネージャーという位置で、ずっと一哉くんのそばで働いてきた。  基本的には雑用と事務処理だけれど、同棲している分、この1年、長い時間離れたことなんてなかった。私の存在をよく言わない人も一部いるみたいなのは薄々気付いている。それでも私が一哉くんのそばで仕事できるのも、バンドメンバーとレコード会社や事務所の理解があるからだ。  そしてなにより一哉くんが私の存在を守ろうとしてくれていることが大きかった。それなら、アシマネの私が彼に返せるのは、ただ与えられた今の仕事を真摯にこなして、殲滅ロザリオのトーイにとって心地よく、そして世界進出への夢を叶えるために精神的にも健康の面でも支え続けることだと思っていた。
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