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「休憩はどのくらい?」
「少しじゃねーの」
「え? 知らないの?」
「急いで出てきたから」
「ごめん…」
「謝るの癖すぎ」
「ご…う、うん気をつける」
「素直でよろしい」
一哉くんは満足げに笑うと、私の頭の両脇を軽く手で覆うようにして私の顔を上向かせる。
目を閉じると、柔らかく濡れた唇が唇に重なる。優しく触れあうキスがゆっくり繰り返される。淡く包むようなささやかな感覚を堪能するように一哉くんの服をつかむ。その動きに反応したのか、一哉くんがかすかにキスを変えてくる。
それは、どこかむせ返るような欲情への誘いだ。このままだと煽られてしまう。自制心を働かせて少し一哉くんの胸に手をつく。それに気づいた一哉くんは離れると、目をかすかに細めて笑う。
「今はダメか」
「ダメ」
「じゃ、続きは帰ってから」
期待に満ちた声に、思わず笑いが漏れて頷く。
駐車場の傍らで、一哉くんの体温とあたたかな日差しが心地いい。胸に甘えるようにすり寄ると、一哉くんは強く私を抱きしめ返してくれた。
こうしていられる時間が、しばらくなくなる。
それに耐えられるのだろうか。
ジャケット撮影やら取材対応やらで、アメリカのこのマンハッタンシティスタジオに缶詰ではない。もちろんライブもあるから、日本と往復することも多い。私が日本に帰国したところで、全く会えないというわけではない。
それでもレコーディングを含めて滞在期間は半年。
半年なんて短いようで長い。
ずっと一哉くんのそばで、一哉くんの成長も心の動きも、全部見ていたい。マネージャーなんて立場より、…ただそばにいて見ていたかった。
本音は、ただそれだ。
好きと、愛してると、自由に囁いて、囁かれる。
その甘い甘い砂糖菓子をほおばるような幸せな時を、半年間我慢する。
できるのだろうか、自分に。
不安がよぎったその時、ピューイッと甲高い指笛の音が響いた。
「Hey,there! You're so lovey dovey!」
(やあ、ラブラブだな!)
荷物を抱えたなじみのスタッフが通りすがりにからかう。それに笑いながら挨拶を返すと、一哉くんは自慢げに早口で言葉を返す。
うらやましがるな、なんていうニュアンスだ。
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