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「お、ご主人様のお出ましっすね。飛んで火にいる夏の虫!」
そう言うと一気にこちらに走り出した。
「あかん、坊、逃げて!」
疫病神が叫んだ。
「うるさい虫っすね!消えろ!」
そう言うと死神は、大鎌を一振りした。
疫病神は大鎌に切り裂かれ、舞い散る砂のように消えてしまった。
「うわああああああああ!」
僕は声の限り叫んだ。疫病神が!絶対に許せない。
僕は、弓を構え、詠の破魔矢をぎりぎりと引いた。
「おやおや、いつの間に。坊ちゃんも力をつけたんすね?面白い。
やれるもんならやってみろ!」
そう叫ぶと今度は、足にすがる貧乏神を笑いながら切りつけた。
すると貧乏神も砂のように消えてしまった。
僕の怒りはもう頂点に達した。
僕が破魔矢を放つと、その矢は死神の左手に命中した。
死神の顔が一瞬苦痛に歪んだ。
「やるじゃないっすか。ちょっと痛いっすねえ。ただで済むと思うなよ?」
そう言うと、僕の放った矢を手から引き抜いた。
死神を仕留めることができなかった。
死神の大鎌は次は詠に狙いをつけた。
僕には誰も守れないのか。僕は絶望に立ち尽くすしかなかった。
その時突然、神社の大きな木蓮の木が閃光を放った。
あたり一面が真っ白になり、皆目がくらんだ。
薄く目をあけると、木蓮の木の枝が無数の手になった。
千手観音!
そこには木蓮ではなく、観音様が居た。
無数の手はどんどんと死神のほうへ伸びていった。
死神はあまりのことに、茫然自失して油断していた。
無数の手に掴まれて、高々と抱え上げられた死神は
体を八つ裂きにされた。
そして、小さな塵芥となり、観音様の手のひらに納まった。
すると観音様はそれを胸の前で握り締め
自らの中へと取り込んだのだ。
僕はがっくりと膝をついて号泣した。
疫病神と貧乏神が死んだ。
「青年よ、嘆くでない。疫病神と貧乏神は死んではおらぬ。
帰るべきところへ、帰っただけなのだ。」
別の二つの手に持った砂を、僕の両手に乗せた。
「これを祀るがよい。そなたはいつでも、神々に会いにくることができる。」
そう言うと、光は徐々に弱くなり消えていった。
はかない光の中に、一人の巫女装束の美しい女性が立っていた。
「お母さん!」
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