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「で、さ。上が出した結論は、あんたを異動させようって。広島支社にいるプログラマーが一人、寿退社することになって欠員が出たからって。それで、プログラミングの研修を兼ねて瀬戸とドイツに行かせようって話になったみたい」
「あ、あの案件って…」
「あたしも、最初は瀬戸が勝手にやってるもんだと思ったんだけど…帰ってきたら頃合いをみて辞令が出るようになってたんじゃないかな」
あれは、藤次郎が勝手に勘違いして棄却した案件。もしそれが通っていたら、あたしは近いうちに確実に広島に行かされていたということなんだろうか。
「それ、次長も知ってたと思う」
「知ってたって?」
「その案件が、あんたが広島に行くためのものだってこと」
「…うそ、じゃあ棄却したのって、」
「あんたを行かせないため、広島に」
「そ…んなわけない。だって、それって形式は違えど辞令みたいなもんじゃん。それを棄却するって…それって…」
瀬戸くんと一緒に行くのが嫌だから棄却したなんて、そんなバカバカしい理由じゃなかったってこと…?
「結構、ヤバいと思う。次長にも、前もって話はいってたはずなのよ。決裁しろって言われてたと思う。由宇をドイツに行かせろって」
恥ずかしい。
あたしの知らないところで、藤次郎が、全部、全部、全部。
「そりゃ、瀬戸と一緒に行かせるのももちろん嫌だっただろうけどさ、」
「ち…がうよ…」
そんな理由じゃない。きっと、そんなピンクピンクした理由じゃない。
「あんただけじゃないよ。次長だって、課に来る度に、あんたのこと目で探してた」
「知って…たの?」
「…ごめん。多分、想い合ってるだろうなって、なんとなくわかってた。それでも、コンパに誘ったりしたのは、やっぱりあんたには幸せな恋愛してほしくて」
わかってる。
真里が気付いていてもそうじゃなくても、結果は同じだった。気付いていても知らないふりをしてくれたからこそ、あたしは麻宮さんと出逢えた。
責める理由なんて、どこにもない。
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