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「由宇、お願いだから血迷わないで。あんた、広島に行こうとか思ってないよね?」
単純なあたしが出せる答えは、それしかない。でも、それでもまだ藤次郎と離れたくないと思っている自分がいる。
ここまでくると、情けないを通り越してただのバカだ。
「次長だって、別に個人的な感情だけで動いたわけじゃない。あんたが本社に必要だから引き留めたんだよ」
「そんなの…わかんないよ」
「わかるよ。あんたが頑張ってること、知ってる人はたくさんいる。次長だけじゃない、あたしだって、主任だって、課長だって。同期だって、妬んでる人間ばっかりじゃないよ」
真里が気休めを言ってくれてるわけじゃないってことぐらい、わかる。それでも、一度マイナスに向かった思考は簡単には軌道修正できない。
「あんたが広島に行っても、何かが変わるわけじゃない」
「わかってる」
「麻宮さんとも離れるんだよ?」
「わかってる!」
「わかってない!何一つ冷静に考えられてないくせに、わかったふりしないでよ!」
だって。
だって、あたしはお荷物だから。
「嫌なの…藤次郎の邪魔、したくないんだよ…」
きっと、これからも藤次郎はあたしをかばうだろう。あたしがここにいる限り、後ろ指をさされる限り、藤次郎はきっと、あたしの前に立って全てを払ってくれるだろう。
それが例えば罪滅ぼしだとしても。例えばあたしへの気持ちからだとしても。
とてつもなく、重い。
あたしには、抱えきれない。
「出世したいくせに…余計なことしないでよ…」
「出世より…大切ってことなんじゃないの」
苦虫を噛み潰したような表情をしてそう言った真里。ぽんぽん、とあたしの肩を叩いてその場を後にした。
もう、一生会わないって覚悟がないと、駄目なのかもしれない。
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