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麻宮さんの突然の、というか本人も予定していなかったらしい告白のおかげで、落ち着きをなくしたあたし。
ただ、麻宮さんが何事もなく接し続けてくれたこともあって、とりあえずその日は事なきを得た。という言い方は麻宮さんに失礼かもしれないけれど。
週明け、出勤するや否やいつもの同期がハイエナのように寄ってきたのは言うまでもない。本当は、麻宮さんと会った翌日に彼女からの追及を受けると構えていたのだけれど、どうやら自宅から取引先に直行だったらしく今に至る。
「ゆ・う・ちゃん」
「な・あ・に」
振り返ることもなくキーボードを叩く態度に、少し不満を示す彼女。
「報告義務ってもんがあるでしょ、あんたには!」
まあ、確かに。あの日、背中を押してくれたのは他の誰でもない真里である。藤次郎から離れられないと決めつけていたあたしに、麻宮さんという選択肢を明確に与えてくれた。
「うん、まあ。楽しかったよ」
「告白は!?」
「された」
「ひゃー!!ほらー!ほら!ほら!ほら!行って良かったじゃーん!」
しかし行動が早いな、とか。まさかもうキスぐらいした?とか。
ぶつぶつ呟く独り言を聞いていると、真里もまだまだ若いなと思う。というか、なんだかんだあたしたちは、まだ二十六歳なのだ。
「最近の若い子にとっては、二十六もおばさんなんだよね」
「やめてよ、悲しくなる。ってか、実際自分たちがその齢になっておばさんになった、とか言う女たちなんて、あたしたちは大人なのよーって、子供と境界線引きたいだけなんじゃない?」
なるほど、言われてみればそうなのかも、と妙に納得する。
「おばさんなんて言われても、あたしはまだまだ二十六歳ですって言えるもんねー。むしろ年をとるのが楽しいぜ!」
だからさ、と、一呼吸置いた真里が次に吐き出した言葉は、凶器だった。
「次長のことは、忘れようよ。あたしたち、まだまだこれからじゃん」
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