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これから。そう、これからなのだ。
二十六歳なんてまだまだ未熟で、仕事も恋愛も、いくらでも可能性がある。選択肢は無限大で、今から大きな夢を思い描くことだってできる。夢を夢で終わらせる必要だって、ない。
「麻宮さんからね…連絡がきたの」
「ふん」
「告白の返事、ゆっくり考えてください、って」
一日置いて土曜日のお昼過ぎ、麻宮さんから電話があった。ディスプレイに表示された名前を見た途端、体に緊張が走った。そのまま出ないでおくという手もあったけれど、衝動的に出てしまった。
絶妙なタイミングの電話だったと思う。会った翌日、もしも仕事中にかかってきていたら動揺してそれ以降の仕事に集中できなかったかもしれない。かといって日曜であれば、次の日からまた仕事だというのに考えることが増えて憂鬱になってしまうところだっただろう。土曜日の午後は、あたしにとってベストなタイミングだった。
「感謝してる、真里には。あの日、コンパに誘ってくれて」
「いーえ。うまくいきそうで何よりよ」
減点法で男性を見てきたあたしに、加点法を教えてくれたのは藤次郎。相手の良いところをたくさん見つけろって。そしてこの人だと思った男性を選べって。
麻宮さんは、どっちの方法で見ても文句なしだと思う。あたしが藤次郎を想っているように、麻宮さんを想っている女性だってたくさんいるはずだ。
そんな麻宮さんが、あたしがいいって言ってくれている。躊躇う理由がどこにあるんだろう。
「あたしたち、まだ二十六歳だよ。しつこいけど。失敗してもやり直せるんだから。付き合ってみてもいいんじゃないかな」
試しに付き合うなんて麻宮さんには失礼だけど、と付け加え、真里は財布を持って課を出て行った。
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