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「好きなの?その男のこと」
「…は…い」
「そっか」
お願い、神様。どうかこの選択は間違っていなかったと言って。
「信じてもらえないかもしれないけどさ、本当に嬉しかった。由宇とこうしてまた、当たり前のように一緒にいられて」
「なんの…ことですか?」
「うん。ほら、俺たち、というか俺が、昔あんなことしたからさ」
“あんなこと”
思い違いじゃなければ、多分、あの日のこと。世間知らずだったあたしが、藤次郎を一方的に悪者にしてしまったあの日のこと。
「後悔、しなかったって言ったら嘘になるけど。でも、我慢なんてできなかった。だってお前、可愛すぎ」
ああ。この表情、好きだな。目じりにできるシワ。これ、好きな女の子多いよね。
弱々しく笑うその顔に、胸が締め付けられる。ギュウウ、って、音をたてて心臓が縮んでいくみたい。
「この会社に入ってきれくれたことも、俺と普通に接してくれたことも、俺に抱かれてくれたことも、全部。全部、すげえ嬉しかった」
「お前があのマンションから出て行ったときは、いよいよ終わりだって思ったけど」
「でも、神様ってヤツはいるのかも、って。こうしてお前とまた、出逢わせてくれた」
「俺はね、由宇。馬鹿だから。外見で苦労したことなんてないし、それなりに良い大学も出たし、仕事も順調だし、女の子にも不自由したことはないけどさ。でも、大切なものに気付くのは、すごく遅かったみたいだ」
「馬鹿だよな」
仕事はまだ、残っている。今から課に戻って、先週分の遅れを取り戻して、今週末が納期の案件に手をつけなきゃいけない。
でも、こんな顔で戻れない。
「ははっ、お前、泣きすぎ」
「だ…って、」
「多分、初めて会ったときから…俺は、由宇のことが好きだったんだよ」
本当、遅いね。
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