自己完結上手な女

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真里はその後、あたしの涙が止まるのを、ずっと待ってくれていた。 「ごめんね…仕事」 「あたし、仕事早いから。別に急ぎの案件もないし」 「…あのね、」 事後報告。 なんて言いづらいんだろう。“実はね”、なんて、後出しみたいで嫌いなのに。 「ごめん、あたし、多分知ってた」 「え?」 「あんたと次長のこと、気付いてた…と、思う」 「それって、まさか、」 「うん。関係を持ってるってこと」 落ち着いてね、と言って彼女は続ける。別に慌ててなんかいない。でも、今から彼女が話す内容は、もしかしなくても良い内容じゃないかもしれない、なんて。少なからずそう思ってしまう。 あくまで、勘だけど。 「秘書課から引っ張られてきたとき、妬まれてたことは知ってるよね?」 「うん…」 「一時期だけ、間宮次長に特別扱いされてるって、関係が怪しいって噂が流れたことも」 「知ってる」 「まあ、そんな噂はすぐに消えたんだけど。ああ、橋本さんと坂井さんがまだ少し疑ってるか…。そのことで、次長、常務に呼び出されたらしいの。人選ミスじゃないのかって」 “お前も、俺が人選ミスをしてると思うか?” 以前、次長室の前で立ち聞きした藤次郎と橋本さんの会話を思い出す。 藤次郎は、あたしのことで色んな人に、色んなことを言われたんだろう。それをあたしが知らないということは、全部、藤次郎が一身に受けてくれていたということ。 今更ながら、あたしって、無力。 「そこでの話の内容は知らない。でも、同席した人が流した噂なのか、とにかく、次長が常務に食って掛かったらしくて」 「加賀だから、引っ張ったんだって。加賀だから、加賀だから、とにかく、加賀だから。それしか言わなかったらしいよ」 「聞く人が聞いたら、特別扱いだよね。後先考えずにさ。しかもそこには、社長も同席してたっていうからまた驚きだよね」 あくまで、勘、だったのに。 「だから多分、もしかしたらだけど。社長の娘…眞由美さん?も、あんたのこと、知ってるんじゃないかな」 社長に存在を知ってもらえるなんて、普通は光栄なこと。だけど、だけど今は、全く嬉しくない。 あたしの知らないところで、何かが動いている気がして。 手が、震える。
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