隣に越してきた田中さん

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「202号室に越して来ました、田中と言います」 彼女は近所の女子大に通う学生らしい。 無垢な笑顔を向けられ一瞬たじろぐが、笑顔を向けられ嫌な気持ちになる人間はいないだろう。 私も自己紹介をして同じ様に腰を折った。 * 田中さんと出会って一か月が経つ頃、私と田中さんはご近所さんらしく言葉をかわすようになる。 「メグミちゃん」 田中さんは、中学生の私をそう呼ぶ様になった。 「田中さん、お帰りなさい」 「…!ありがとう、メグミちゃん。ただいま」 それから、行ってらっしゃい。 夜勤アルバイトをしているらしい田中さん。通学の私を見かけると、いつも少しだけ疲れた顔に目一杯の笑みを浮かべて手を振ってくれる。 学校は楽しかったり楽しくなかったりするけれど、こうして疲れていても笑顔を絶やさない人を見ると頑張らないといけないな、と思ってしまう。 「行って来ます」 私は軽く会釈をして、今日も変わり映えのない日常に向かった。 10歳。 それが私と彼女の年齢差だけど、生活はこんなにも違う。 10年という年月は、そんなに長いんだろうか?
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